天然皮革のシワ・筋は不良品ではない|革製品の自然な表情について

先日、当店に入荷したDIFFUSER Tokyo のレザーメガネケース SG1174のブルー&ブラウンに、革表面のシワを発見しました。気になったため、販売元のJoyEverytimeに問い合わせたところ、「その程度のシワであれば良品の範囲です。天然皮革を使用した製品ですので、ご理解いただけますと幸いです」という趣旨の回答をいただきました。
このやりとりを通じて、あらためて感じたことがあります。革製品を長年扱ってきた者としては当然のことでも、お客様にとっては「なぜ新品にシワが?」と疑問に思われるのはごく自然なことです。そこで今回は、天然皮革の革製品に見られるシワや筋について、その正体と見分け方を整理してお伝えします。

天然皮革とは”一点もの”の素材である
天然皮革は、牛や豚などの動物の皮を鞣(なめ)して作られる素材です。合成皮革や人工皮革とは根本的に異なり、同じ動物の皮であっても、部位や個体によって繊維の密度・厚み・柔らかさがそれぞれ違います。生きていた証ともいえる表情——それが革の個体差であり、天然素材ならではの魅力でもあります。
工業製品のように均一な見た目を求めるとすれば、それは合成素材の役割です。天然皮革に「どれも同じ表面」を期待すること自体、素材の本質とは少しズレているかもしれません。とはいえ、「これは自然な表情なのか、それとも何かの不具合なのか」を見分けることは大切です。以下に、革に現れるシワや筋の代表的な原因を整理します。
革に現れるシワ・筋の種類と見分け方
生体由来のシワ:トラ(トラジワ)と血筋
革の表面に見られるシワのうち、もっとも代表的なものがトラ(トラジワ)と呼ばれるものです。動物が生きていたときに、首・肩・脇腹などの可動部に生じた皮膚のたるみや折れ目が、鞣した後も革の表面に残ったものです。トラは平らな状態でも見え、光の角度によっては線として目立つことがあります。革を裁断してパーツを切り出す際に、トラが入りやすい部位を避けることはある程度できますが、完全に排除することはできません。ブランドによっては「トラのある革はむしろ質のよい証拠」として積極的に評価されることもあります。
同じく生体由来の表情として、血筋があります。動物の皮膚の下を走っていた血管の痕が、革の表面に細い筋として残ったものです。DIFFUSER Tokyoの製品には「血筋などがある場合がございます」という注意書きが添えられており、天然皮革を使用した製品には起こり得る表情として案内されています。トラと同様、これも不良ではなく、天然素材であることの証といえます。
なお、革の表面にはシボと呼ばれる細かな粒状の凹凸模様が見られることもありますが、シボはシワや筋とは異なる表情です。本記事ではシボの詳細には触れず、線・筋として現れる表情に絞って解説を続けます。
加工由来のシワ:成型ジワ
平面の革を立体的な形に成型する工程で生じるシワを成型ジワと呼びます。革をカーブに沿わせて整形するとき、外側(ふくらむ側)は引っ張られ、内側(曲がり込む側)は圧縮されます。この圧縮された側の革が「逃げ」を作り、その逃げが筋や寄りとして表面に現れることがあります。
フラップ(かぶせのふた)の付け根や開口部まわり、ケースの先端カーブなど、形状の変化が大きい箇所に集中して見られるのが特徴です。同じ方向に線が並ぶ、あるいは曲面の内側に寄りが出るような見え方になりやすいです。
この成型ジワは、合成皮革ではほとんど起きません。天然皮革は部位差・個体差を含む有機的な素材であるため、成型したときの「逃げ」の出方もひとつひとつ異なります。それが、同じ型・同じ工程で作られても製品ごとに表情が違う理由のひとつです。


フラップを開けたときの開口部まわりのシワ
ケースのフラップ(ふた)を開いたときに見える、本体の口まわり——開口部のカーブに沿った部分にも、シワが生じることがあります。これも成型ジワの一種です。ケースの開口部はカーブを描いているため、革の内側(曲がり込む側)に圧縮の力がかかりやすく、その逃げが縦方向の筋として複数現れることがあります。フラップを閉じた状態では隠れる部分ですが、開いたときに目に入ることがあります。

使用・保管由来のシワ
使い始めてから生じるシワもあります。ケースの開閉を繰り返す箇所に現れる曲げジワ、バッグの中で長時間圧力がかかり続けることで生じる圧迫ジワ、そして乾燥や高温によって革が硬くなり折れ癖がつく乾燥由来のシワがその代表例です。
「最初からあったシワ」なのか「使い始めてから増えたシワ」なのかで、原因の切り分けが比較的容易です。後者であれば、保管環境や使い方を見直すことで進行を抑えられることもあります。
要注意:本当に確認すべき不具合のサイン
ここまで挙げてきた生体由来・加工由来・使用保管由来のシワは、いずれも天然皮革の製品に起こり得る自然な表情です。一方で、以下のような状態は自然な表情とは区別して確認が必要です。
革の繊維層まで達している深い傷、乾燥や劣化によるひび割れ、表面仕上げがめくれる剥がれ、そして接着が浮いたような表面の浮き——これらは素材の表情ではなく、製品の状態確認が必要なサインです。購入時や使用中にこういった状態が見られた場合は、購入店にご相談されることをおすすめします。
写真では線が実物より強調されて見えることがある
革表面のシワや筋は、光の角度や反射によって実物よりも濃く・くっきりと映ることがあります。とくに斜めから強い光が当たった状態での写真は、実際より目立つ印象を与えることが少なくありません。
気になるシワを見つけた際は、室内の柔らかい自然光のもとで複数の角度から確認することをおすすめします。見え方が大きく変わるようであれば、それは光の影響によるものである可能性が高いです。
SG1174のシワについて——メーカーの見解
今回当店に入荷したSG1174のブルー&ブラウンに見られたシワについて、販売元のJoyEverytimeに確認したところ、「良品の範囲であり、天然皮革ゆえの表情である」という回答をいただきました。
SG1174の外装には、日本産の牛革(ヌメ革)が使われています。この革は、タンニンの量をあえて抑えてクロームを加えることで、ヌメ革らしからぬしなやかさと弾力を実現しています。しなやかで追従性が高い革は、立体的な成型をした際に曲面の内側で「逃げ」が生じやすく、それが開口部まわりや側面に筋として現れることがあります。革質・厚み・仕上げ・芯材の有無など複数の要因が絡むため、同じ製品でも個体によって出方は異なります。
SG1174について詳しくは、DIFFUSER Tokyo スムースレザーメガネケース SG1174 入荷のご案内もあわせてご覧ください。
長くきれいに使い続けるために
天然皮革の製品を良い状態で長く使うためのポイントは、「高温・乾燥・圧迫」を避けることです。直射日光が当たる場所、真夏の車内、暖房器具の近くへの放置は革の乾燥・硬化を招き、ひび割れや折れ癖の原因になります。バッグの中に詰め込みすぎることも、形崩れやシワを定着させる要因になるため注意が必要です。
濡れてしまった場合は、乾いた布で水分をやさしく取り除き、風通しのよい日陰でゆっくり乾かしてください。急乾燥は革の収縮や硬化を起こします。汚れは基本的に乾拭きで対応し、ツヤを保ちたい場合は革用クリームをごく少量使用します。内側がスエード素材のものは、クリームを塗らないのが基本です。
天然皮革は、適切なケアを続けることで、使い込むほどに手に馴染み、独自の表情を育てていく素材です。個体差を含めた「その一点だけの表情」を、ぜひ楽しんでいただければと思います。
